みんなでつくる海外農業情報プラットフォーム

米国のファーマーズマーケットの今 ~地域とのつながりを核に品質で勝負~

米国で新鮮な野菜を手に入れることはなかなか難しい!?

米国(東海岸ワシントンDC)生活で困っていることの一つが、新鮮な野菜類がなかなか手に入らないことだ。米国における野菜生産量(2015年)は、カリフォルニア州(51.0%)を筆頭に、フロリダ州(7.8%)、アリゾナ州(7.2%)、ワシントン州(5.1%)、ジョージア州(4.6%)の西部・南部の5州で約76%を占めている1。生産量の多くは大規模農場によるものであり、2012年には、全体数の約9%弱を占める100エーカー(約40ヘクタール)以上の農場が、88.5%の野菜を生産している2

消費者の多くが利用する大規模小売店(スーパー)は、主に上記5州を中心とした大規模農場産の農産物を大ロットで仕入れているが、広大な国土を有する米国では輸送に時間がかかるため鮮度の低いものが陳列されていることも珍しくない。また、メキシコやチリ、コロンビアなど南米からの輸入物も多いのだが、こちらも鮮度が良いとは言えない。そして何より、品揃えは年間を通して大差なく、季節感がない。

それでは、新鮮な旬の野菜はどこで手に入れるのか―その選択肢の一つが、ファーマーズマーケット(以下、FM)である。

 

近郊の新鮮野菜が並ぶFMでは鮮度が付加価値に

地元の消費者で賑わうFM

地元の消費者で賑わうFM

米国のFMは、常設の直売所が多い日本と異なり、週末などの特定日に、公園や学校などの公共の場所に、農家や小規模事業者が集まって開かれている場合が多い。遠方の大規模農場から仕入れる大規模小売店とは異なり、FMには小規模事業者が出店しており、近郊の地域・州産のものが並ぶ(「近郊」とはいえ、半径2~300km圏内のものが多く目につき、米国らしさを感じる)。品ぞろえは豊かで、野菜や果物はもちろんのこと、各種食肉、魚介類、花きのほか、パンやジャム、ピクルス、チーズやソーセージなどの加工品も。地元で収穫したばかりの農産物は、鮮度も抜群だ。

FMに並ぶ農産物は、大規模小売店などで購入するものに比べ、鮮度はもちろん抜群に良いのだが、最も驚いたのが価格設定だ。日本では一般的に、「新鮮」な農産物が「手頃な値段」で手に入ることが、消費者にとっての一般的な直売所の魅力の一部となっていると思うが、こちらでは、高級スーパーと比べてもなお高めの値段だ(例:11月下旬現在の店頭価格で、ブロッコリー1ポンド=高級スーパー1.8ドル、FM3.5ドル、リンゴ(Fuji)1ポンド=高級スーパー約2ドル、FM約3ドルなど)。

買い物客に話を聞くと、「値は少し張るが、鮮度や味を考え、納得して購入している」などの好意的な声が多く聞かれ、生産者と消費者の双方にメリットがもたらされているようだ。近所のFMに通っている限りでは、消費者と顔見知りのように会話をする出店者も少なくなく、来客の多くは近所のリピーターではないかと感じる。

私が訪問した都市部のFM(ワシントンDC、メリーランド州、バージニア州、ニューヨーク州等)への出店農家は、ほぼ全てが大規模流通に乗らない小規模家族農業者であり、彼らにとってFMは重要な販路の一つとなっていた。もちろん、ひとつのFMへの出店だけではさばき切れないため、各曜日に開催される複数のFMを掛け持ちし、販売高を確保しているのだという。彼らによれば、地元の野菜にこだわって、近くのレストランが直接買い付けに来る例も増えているとのことで、それをきっかけに契約取引に発展するなど、新たなビジネスチャンスを創出する場にもなっている模様だ。

 

地域支援型農業(CSA)に取り組む出店者も

また、多くの出店農家は、FMでの販売に加え、より深く消費者や地域とのつながりを構築する取り組みとして、地域支援型農業(Community Supported Agriculture : CSA)に取り組んでいるのも印象的だ。米国農務省(USDA)によれば、CSAとは「住民のコミュニティが特定の農場・農業者を支援することを約束し、農業生産の利益とリスクを共有しながら、相互に支え合っていく農業の形」であると定義されている。具体的には、多くの場合、CSAメンバーである住民(シェアホルダー)が、播種前に「シェア」と呼ばれる持分を購入し、その対価として、収穫期を通じて新鮮な農産物を受け取ることができるというシステムをとっており、以下の通り、農業者・消費者双方にメリットがある仕組みとなっている。

 

農業者 消費者
・農繁期前に販売に取り組むことができる。

・早い段階で支払いを受けるとともに、天候不順等のリスクもシェアホルダーと共有することで、安定経営の一助となる。

・消費者と直接繋がる機会を得られる。

・栄養価が高く食味も良い、新鮮な旬の農産物が手に入る。

・農場を訪問し、農業者との直接の関係を築くとともに、農業に触れることができる。

・地元地域の活性化につながる。

 

地域住民で賑わう圃場

地域住民で賑わう圃場

CSAは1980年代に始まった比較的新しい考え方であるが、CSA農場数は、1990年には約60であったものが、2012年には約12600と、急速な広がりを見せている3。このように近年消費者の支持を集めるCSAの現場を一目見たいと、地元メリーランド州の「レッドウィグラー(みみず)コミュニティ農場」4を訪問した。代表のウッディ氏は、「農業を通じ、障害者の技術指導と雇用創出、地域貢献に取り組みたい」との思いで、1996年に農場を設立。以来、共感した地域の人々や自治体、企業などの支援を受け、障害を持った方々をスタッフとして雇用し、CSA経営に取り組んできた。現在では約5ヘクタールの農場で生産した農産物を、120戸のシェアホルダーに週約30ドル(約3,300円5)で供給する傍ら、店頭での販売や、近隣の障害者施設やフードバンクに対する寄付などに取り組んでいる。
また、同農場では、生産・出荷・販売のそれぞれにおいて、責任ある仕事がスタッフに任されており、着実に技術を身に付けられる環境となるよう心掛けているほか、小学校から大学までの近隣の学生を受け入れて農業体験・研修を提供し、若年層の農業への意識啓発にも取り組んでいるという。既に、この農場で経験を積んで、独立した研修生も誕生しているとのことだった。

 

年々広がる地産地消の取り組み

日本に住んでいると、ハンバーガーやステーキなどのアメリカン料理の印象もあり、ややもすると米国は「ファストフードの国」というイメージを抱いてしまうかもしれないが(恥ずかしながら筆者はそうであった)、実際に住んでみると、近年は長年にわたる健康問題も背景に、消費者の食への関心の高まりを受け、Farm to Table(農場から食卓へ)とも呼ばれる地産地消の取り組みが広まってきていることを肌で感じる。

そうした流れの中で、本稿で見てきたようにFMやCSAの数は年々拡大の一途を辿っており、都市近郊を中心に小規模農業者にとっての追い風となっているほか、地域住民が新鮮な野菜を楽しめる機会の拡大にもつながっている。今後もこうした取り組みがますます拡大し、小規模家族農業と、その消費者との絆の発展につながることを期待したい。

 

参考

[1] USDA (2016年2月)「Vegetables 2015 Summary」

[2] USDA (2014年4月)「2012 Census of Agriculture」

[3] RODALE INSTITUTE(2004年2月)「The History of Community Supported Agriculture」、USDA (2014年4月)「2012 Census of Agriculture」

[4] Red Wiggler Community Farm ウェブサイト (https://redwiggler.org/)

[5] 1ドル=110円で計算

by
米国ワシントンDCにて、農業・貿易政策調査および政治情勢分析に従事。 「足で稼ぐ」がモットー。休日はそこかしこに出かけ、土地のものを食べて飲んで見聞を広げております。