イギリスのケンブリッジは大学を中心としてIT系、医療系など様々な分野のベンチャー企業の集積地になっており、「ヨーロッパのシリコンバレー」なんて呼ばれたりしています(先日ソフトバンクが買収したARMもケンブリッジの企業なんですよ。)。ま、ケンブリッジは大学街というよりも大学の中を牛が我が物顔で草を食べているほど田舎なので、たくさん土地があるってことも案外大きいと思うんですが。。。
その中で農業技術(Agri Tech)も重要分野と認識されており、農業界に新しい技術でイノベーションを起こそう!という空気感がすごいです。今回は2016年11月にケンブリッジで開催されたAgri-Tech Eastの年次総会の中から、スタートアップとしてプレゼンを行った6社の事業概要を紹介します。
そもそもAgri-Tech Eastについて知りたい方はこちら
圃場に常時設置する土壌センサー。圃場のセンサーで土壌の状態を常時モニタリングし、その結果をオンラインでマネージャーに常時配信することで、病害に対する迅速な対策や、収穫量の増大のための対策を迅速に行うことが可能。
農作物の遺伝子的な情報のテスター。遺伝子的な情報をテストし、15分程度でその場で答えを出してくれるもの。テスターは小さく、携帯可能であるため、圃場でテストを行うことが可能。遺伝情報を蓄積することで、より詳細な分析が可能。
ドローンなどを用い、気象、地理、土壌情報を用いて、より詳細な農業を分析する情報サービス。穀物生産に特化し、病害の早期発見、収穫量の予測、雑草の発見、変化の原因探求などを行う。
家畜のバクテリアの感染をチェックする新たな手法。バクテリアの感染によって多くの家畜が死んでおり、従来の手法では感染の初期を発見できなかった。新たな手法によって、効果的、迅速にチェックし、早急な対策を打つことが可能。
農業生産技術や販売を含めてトータルなコンサルタントを行うサービス。
農作物(果物)の収穫ロボット。特にイチゴ、ブドウ、リンゴ、ブルーべリーの収穫など、従来人間が行っていたものを代替することで、雇用のリスクを減らし、継続的な収穫を行うことが可能。
ざっと見て分かるように、6社のうち半分はセンシング技術の応用で、日本では例えば富士通が提供しているAkisai (実際にAgri Tech Eastにも富士通のイギリス法人がプレゼンのパネラーとして参加し、紹介していた。)。とそう大差ない印象です。ICTの発達で、例えば衛星画像の利用やドローンや小さなセンシングデバイス、土壌や気象状況をモニターする技術が格段に安くなり、また常時オンラインで情報配信することもコスト的に可能になったため、一般農家でも導入できる価格になったということなんだろうと思います。これだけ類似のサービスがスタートしているということは、数年で勝者敗者が分かれてくるのではないかという感じを大いに受けました。
こうしたセンシング技術関係について、プレゼン後には業界の将来について討論するパネルセッションもあり、話題の中では
①集めた情報を処理して具体的な解決策へと処理するアルゴリズムをどう作れるか(要は情報は取れても営農アドバイスにつなげるところがまだまだだよねということ)、
②どれほどスケールメリットを生かせるか(システムが構築されれば、たくさん顧客がいるほどデータも集まり、単価も下がるので、早く顧客を囲ったもん勝ちということ)、
③どういうビジネスモデルを描けるか(農家からの収入を前提にすると、サービスによって収穫逓減リスクを減らした差額がサービスの対価になるので、単価は限られているし、その結果、投資家にとって魅力的に見せるための提案には工夫が必要、ということ)
が議論されていました。とはいえ、成長分野であるのは確からしいこの分野、新しいサービスがいろんな分野から生まれて業界を活性化してくれるのは良いことですね。