みんなでつくる海外農業情報プラットフォーム

アメリカの日本酒(SAKE)事情

世界で急速に拡大する日本食

2013年に「和食」が国連(国連教育科学文化機関=UNESCO)により「世界無形文化遺産」に登録されるなど、近年、日本食が世界で脚光を浴びている。事実、海外の日本食レストラン総数は急増しており、2006年には約2万4千店だったものが、2015年にはその約3.7倍となる8万9千店へと急成長を遂げている。その半分の約4万5千店はアジアに存在し、圧倒的なシェアを有しているが、それに次ぐ地域が全体の約3割を占める北米地域である。

出典:農林水産省

筆者はアメリカ駐在生活を通じて様々な州を訪れ、多様な人々と会話をする機会があったが、「スシ」という単語の認知度はほぼ100%であったほか、「ラーメン」などを食べたことのあるという人も多く、日本食はアメリカ国内の幅広い地域において確固たる地位を築いていると感じる。とりわけ、東海岸および西海岸の大都市では、寿司はもちろん、うどん、焼き鳥、居酒屋など、様々な業態の日本食レストランを多く目にする。

こうした日本食の浸透に伴い、日本酒の輸出も増加しており、輸出額は13年に初めて100億円を突破した後、15年には140億円と急増し、この10年で3倍の伸びとなっている2。中でも最大の輸出先は、全体(約60カ国)の26%を占めるアメリカだ。今や「酒=SAKE」という単語は当地でもよく知られており(現地人は「サキー」と発音するのがちょっと可愛い)、西・東海岸を中心に、日本食レストランや日系・アジア系の小売店で簡単に手に取ることができる。また、Amazonなどの通販サービスでもそれなりの品ぞろえがあるほか、日本酒を専門にした通販サイトも発展してきている1

ニューヨークの日系スーパーにずらりと陳列される日本産日本酒

 

シェアを広げるアメリカ産日本酒と日本酒のイメージ

ただ、日本産の日本酒でネックになるのが価格であり、輸送コストや中間マージン等により、日本国内で購入する場合と比べ、どうしても価格が高くなってしまう。筆者が調べたところ、小売価格で日本の1.5~3倍、飲食店ではさらに割高となっている。とりわけ、大吟醸などのいわゆる「プレミアム日本酒」となると、例えば四号瓶一本では、小売価格で30-40ドル~、飲食店では百ドル~数百ドルにもなるものも多い。アメリカでは、ワインの価格が日本に比べて非常に安く、1本10ドル程度でそれなりに美味しいワインが手軽に購入できることもあり、上記の水準はどうしても割高に感じてしまう金額だ。

このため、一部の大手酒造メーカーは、西海岸に工場を設けて流通コスト等を削減し、カリフォルニア米等を用いて、比較的リーズナブルな日本酒を現地生産している。アメリカでは、日本国内と同等の品質の酒造好適米3が入手困難であるほか、水質の違いもあり、国産同様の品質を実現するのは容易でない模様であるが、四号瓶で10ドル弱~という圧倒的な低価格を武器に、現地生産のものは約8割のシェアを獲得している4

アメリカ産のリーズナブルな日本酒により、日本酒文化が普及していくこと自体は好ましい事であるが、アメリカ人の中には、日本酒にもワインのように幅広いグレードが存在するという理解が進んでおらず、リーズナブルな日本酒を飲んで、それが日本酒の味だと思われてしまっているのではないかという懸念がある。実際、筆者の友人の中には、安い価格帯の辛口のアメリカ産SAKEを試し、「日本酒は味がキツいから好きではない」と言っていた人もいた。

これはあくまでアメリカ人と日本酒を飲んできた中での個人的な印象となるが、アメリカ人は特別純米等のピリっとした辛口の酒よりも、芳醇な香りが楽しめる吟醸酒を好むようだ(少なくとも私の友人はそうだった)。事実、前述の友人に吟醸酒を試してもらうと、「白ワインみたいにフルーティーだ」と語るなど、吟醸酒を飲んだことで日本酒の印象が180度変わったという事例を多く見てきた。

 

日本酒の幅の広さを知ってもらいたい

せっかく日本酒の人気がアメリカで高まっているのに、リーズナブルな銘柄だけ飲んで、「日本酒はこういう味だ」と思ってしまわれるのは非常に残念だ。一方で、ほとんど日本酒を飲んだことが無いアメリカ人にとって、どんな味がするかも分からない酒の高価なボトルを購入するのもハードルが高いだろう。

逆に、自分の立場から、ワインに全く詳しくない筆者が値段の張る銘柄を飲もうと思うのはどんな時か考えてみると、小洒落たお店に行き、お店のソムリエにオススメされた時ではないかと思う。ワインの場合、日米ともに、原料ブドウの種類や、味・香りの詳細などについてワインリストに書かれているのでイメージができるほか、ソムリエが料理に合わせてお薦めの銘柄を提案してくれることが一般的だ。

日本酒についても、日本であれば店の方がそうした提案をしてくれる場合が多いが、アメリカでは、日本酒の銘柄名とHonjozoやGinjyoという種別しか書いていない場合が少なくなく、それらの単語は一体何を意味するのか、それぞれの味にはどのような特徴があるのかは、現地人には理解しにくい。銘柄と種別だけ見て、高いボトルを注文しようと思うアメリカ人はなかなかいないだろう。

現地生産のリーズナブルな日本酒が流通量の大半を占める中で、高価格帯の日本産日本酒をさらに普及していくためには、まずはアメリカ人に対し、その味や価値を理解してもらう努力を強化することが必要なのではないか。例えば、日本酒リストに風味の特徴を書くことだけでも興味を持ってもらえるのではないかと思うし、さらにはレストランのスタッフが、料理との相性も含めて銘柄を提案できるよう、レストランへの情報提供やスタッフ教育を強化していくことも効果的なのではないかと感じている。

近年では、フランス等ヨーロッパの一流レストランでも、ワインとともに日本酒がお薦めされているというような話も聞く。アメリカでも、日本酒がワインと肩を並べてアメリカ人に味わわれる日を夢見て、これからも当地アメリカ人に日本酒を勧めていきたい。

注釈

1.例えば、SAKAYATRUE SAKEなど。

2.財務省「貿易統計」

3.日本酒を醸造する原料、主に麹米(こうじまい)として使われる米のこと。統計上は農産物規格規程(農産物検査法)の醸造用玄米(じょうぞうようげんまい)に分類される品種を指し、一般米と区別される。

4.日本貿易振興機構(JETRO)「日本酒輸出ハンドブック~米国編~

by
米国ワシントンDCにて、農業・貿易政策調査および政治情勢分析に従事。 「足で稼ぐ」がモットー。休日はそこかしこに出かけ、土地のものを食べて飲んで見聞を広げております。